アイソジオメトリック解析

構造物の数値シミュレーションには、昔から有限要素法とよばれる手法が利用されています.有限要素法は、70年以上の歴史をもつ数値シミュレーション技術のスタンダードです.これに対して、米国テキサス大学のHughes博士は、有限要素法に代わる新たな数値シミュレーション技術として、アイソジオメトリック解析とよばれる解析法を提案しました.その後、アイソジオメトリック解析の有限要素法に対する優位性が次々と明らかになり、2010年代ころから、欧米の研究者を中心としてアイソジオメトリック解析の研究がさかんに行われるようになりました.

アイソジオメトリック解析では、構造物の形状を表現する際にNURBS関数とよばれる関数を利用します.NURBS関数は、車のモデリングにも利用されており、連続性の高い曲面(とても滑らかな曲面)を表現するのが得意な関数です.当研究室では、アイソジオメトリック解析を柔軟膜面に適用するための研究を行っています.下図は、正方形の膜面を2枚貼り合わせてつくったエアバッグの膨張形状をアイソジオメトリック解析で求めたものです.NURBS関数は本来、とても滑らかな曲面を表現するために開発された技術ですが、アイソジオメトリック解析に膜面の力学モデルを組み込むことで、図のように深い折り目を表現することが可能です.正方形状のエアバッグに、このような深い折り目が発生することは、実験的にも確認されています.

アイソジオメトリック解析で算出した正方形状エアバッグの解析結果(左:変形形状、右:Mises応力分布)

関連文献:Nakashino, et al., "Geometrically Nonlinear Isogeometric Analysis of a Partly Wrinkled Membrane Structure," Computers & Structures, Vol. 239, No. 15, 2020.

新型成層圏気球の研究/開発

JAXA宇宙科学研究所の研究者ならびに他大学の研究者らとの共同研究として、新型成層圏気球の研究/開発を行っています.この気球は、宇宙空間ではなく成層圏とよばれる領域を飛翔する気球です.そのため厳密にはゴッサマー宇宙構造物ではないのですが、当研究室で開発している解析技術で数値シミュレーションを行うことが可能です.本気球の実用化に成功すれば、高度30km以上の成層圏を100日程度飛翔できる気球が実現し、科学観測やさまざまな工学ミッションに利用することができます.

気球はなんといっても軽量につくる必要があり、そのため気球皮膜には極薄のポリエチレンフィルム(厚さ0.01mm)が使われています.ただし、そのままでは膨張したときに皮膜が破れてしまいますので、皮膜の外側から菱目状の網をかぶせて強度を向上させています.スーパーなどで「はっさく」や「みかん」がネットに入れられて売っていますが、あのようなネットで気球を包んでいます.ただし気球を包む網は高張力繊維で製作しています.

新型成層圏気球(左:地上試験用の試験気球、右:数値構造シミュレーション結果の一例)

この気球は、かぶせる網の形を変えることによって、扁平形状や球に近い形状、円筒に近い形状など、さまざまな形に膨張することが分かってきました.この不思議な構造特性を把握するため、小型気球を使った3次元形状計測も行っています.

左:小型気球の3次元形状計測試験、右:3次元計測結果

関連文献1:Saito et al., "Recent Development on the Super-Pressure Balloon with a Diamond Shaped Net —Ground Inflation Tests of Two 2,000 m3 Balloons—," Trans. JSASS Aerospace Technology Japan, Vol. 19, No. 2, 2021.

関連文献2:Nakashino et al., "Analytical study on the Inflated Shape of a Super Pressure Balloon Covered with a Diamond-shaped Net," Advances in Space Research, Vol. 71, No. 1, 2023.