表紙について−なぜ、メビウスの輪か

専門書なので、別にカバーをつけなくても良いと思ったが、カバーを付けるのは出版業界の慣例らしく、この本にもカバーを付けることになった。
そこでカバーのデザインを考える必要が生じた。入門の役割を担う本とはいえ、専門書なので、派手さで目を引くデザインは好ましくない。
とはいえ、単なる幾何学的な模様のようなものではつまらない。何かうまいアイデアはないかと考えた。 この本の企画では、前項「各章の扉の舞台裏」でも述べたように、大きく2つのグループの読者層を想定した。
それは、本学の学生や卒業生のように、現在大学で学んでいる、またはこれまでに学んできた人たちと、高校生を含めた学外の方たちである。一般に販売される書籍であるから、後者の比重もかなり大きいだろうと想定した。
そこで、このような2つの読者層に対して、同じデザインでもそれぞれに異なるメッセージが伝えられないかと考えた。
つまり、学内の人たちには、何か思い出やつながりを感じてもらえるように、しかし学外の方たちには他のおもしろさを感じてもらえるように、ということである。


これも前項で述べたが、航空宇宙学科の本拠地である実験棟の歴史は50年にも及ぶ。
その思い出の建物を外側からと内側から写真に撮ってみた。それをそのまま使ったのではあまりにも芸がない。それに、学外の方にとっては建物には興味も関心もないだろう。
そこで、撮った写真をもとに画像編集ソフトで処理をして輪郭を浮き立たせた。こうして、デザイン化することで、写真のもつ実在感を薄め、模様のように見えるように、つまりは抽象化をした。
とはいえ、学内の人や卒業生が見れば、どこを撮った写真がもとになっているのかはすぐにわかる程度の加工にしている。
次がいよいよメビウスの輪だが、先に建物の外側と内側を撮ったと述べた。当然だが、建物には普通は外側と内側がある。
玄関はその間に介在し、外側と内側をつないでいる。玄関から入った者はかならず玄関から出て行く。大学も入った者は必ず出て行く。
このように、1つのものを外側と内側に隔てるというのは、簡単なことではあるが、実は入るのも出るのも難しい場合がある。その難しさに挑戦するのが、学ぶということであり、我々教員はそのような出入り口に立つ案内人かもしれないし、前述したようにこの本はその羅針盤でもある。
そこで、その玄関で外側と内側を繋ごうと考えた。それは自然にメビウスの輪になっていった。


メビウスの輪は、表も裏もない図形である。
歩いていると知らないうちに表から裏へ、裏から表へと移行する。玄関は入り口なのか出口なのか。エンドレスのように続く世界。
隔てるものがない世界への扉。このようなメビウスの輪を通して発想を膨らませていくと、表だ裏だなどと二分化するような短絡的な思考から脱却することもできるのではないかと考えた。
また、大学での学びは4年間だけで終わるのではなく、その先、生涯にわたって続く出口のない世界への入り口への誘いと考えてみるのもおもしろいのではないだろうか。
• 「航空宇宙学への招待」について
• 主な目次
• 「航空宇宙学への招待」ができるまで
• 各章の扉の舞台裏
• 表紙について−なぜ、メビウスの輪か
• 付録:全目次