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生物の群運動を応用した飛翔体の編隊飛行制御(群制御)の研究


     

 鳥や魚は時に巨大な群を作って移動します。イワシの仲間には数万匹、数十万匹もの群を作って移動するものがあり、ムクドリの仲間では単に巣に戻る際に、数万羽の群を作って営巣地の上空を飛びまわるものがいます。これらの動きに注目する時、どの個体もほぼ同じ大きさで、リーダーを思わせる個体は存在せず、また個体間の動きの同調が高度にとれていることに驚かされます。どうやってこのような巨大な群が実現されているのでしょうか。また、そのメカニズムを人工物に応用したら何ができるでしょうか。そのような興味から研究が始まりました。

3つのルール
 鳥や魚の群を構成する個体の動きは、周囲の個体との相対的な位置によって変化します。すなわち、周囲の個体が遠く離れた位置に存在すればその個体に近づこうとし(接近)、すぐ近くに存在すればその個体との衝突を避けるために遠ざかろうとし(反発)、中間の距離に存在すれば同じ向きを向いて移動しようとします(平行移動)。これをモデル化したものが下の図です。個体の周囲には図のような相互作用領域が存在し、周辺の個体がどの領域に存在するかによって、中心の個体は上の3つの行動のうちのいずれかの行動をとります。すなわち、一番外側の接近領域に存在すれば接近を、一番内側の反発領域に存在すれば反発を、中間の平行移動領域に存在すれば平行移動を行います。計算機上で動きを計算すると、これだけのルールで下の図のような群の動きができあがります。

            
             相互作用領域

    
    接近        平行移動        反発   


               
                計算機上で再現された群運動































   


航空機の群制御モデル
 上で示したモデルは2次元のモデルであるため、そのままでは3次元空間を運動する航空機の制御には適用できません。そこで、下の図のように球状の相互作用領域を用いることにしました。ここでは、相互作用領域は反発と接近の2つの領域に分かれていて、接近と反発の強さを次のような式で与えます。
   
この式は二つの機体間の距離|rij|が中立距離rnより遠ければ、相互作用の中心の機体は周辺機体の方向を向き(=接近)、近ければそれとは反対方向を向く(=反発)ことを意味しています。Aijは中心機体が移動する向きを示すベクトルです。
 平行移動の強さについては次の式で与えます。
   
vjは周辺機体の速度ベクトルで、Pijは中心機体が移動する向きを示すベクトルであり、この式は中心機体が周辺機体と同じ向きに移動することを意味しています。そして最終的には、中心機体の移動方向は次のようにAijPijを足すことで与えられ、接近、反発、平行移動の3つの要素が加わった方向に進むことになります。
    
ここで、接近や反発、平行移動のそれぞれの強さを決めるために上の式のAPが使われます。これらをそれぞれ「接近・反発ゲイン」、「平行移動ゲイン」と呼んでいます。中心機体はαijの方向に移動しますが、周辺機体が複数存在する場合は、それぞれの機体に対して求められたαijの平均方向に移動します。このようなモデルで計算された飛翔体の動きを下の図に示します。50機の飛翔体が、運動方程式に従ってモデルによって決まった移動方向を向くように飛行しています。

     

         3次元の相互作用モデル

       
        計算された飛翔体の編隊飛行

















群制御システムの開発
 シミュレーション研究に基づいて、実機を用いた群制御システムを開発しています。下の図は使用機体と自動制御用のマイコン類です。複数の機体で群制御を行うためには、お互いの位置や移動方向を認識しておく必要がありますが、写真のシステムでは、位置はそれぞれの機体が搭載しているGPSから取得し、移動方向は磁気方位センサーから取得します。そして、それらの情報を無線通信機でお互いに送り合って情報を共通します。これによって、機体間の距離と移動方向を検知し、群制御を行います。

         
         使用機体(MULTIPLEX Fun Cub)

         
    マイコン類(ゼノクロス AP-CUB DIY LITE)

         
       使用機体(DJI Phantom2)

         
      ドローンに搭載した制御ボード

飛行試験
 開発した機体を用いて飛行試験を行い、群制御の動作を確認しています。